読みもの
去年、彼女に何を贈ったか、思い出せなかった
恋人の誕生日が近づくと、毎年おなじ場所でつまずく。「今年は何を贈ろう」ではなくて、「去年、何を贈ったんだっけ」。
去年もその前も、たしかに一生懸命選んだはずなのに、思い出せない。写真をさかのぼって、ようやく「そうだ、マフラーだった」と気づく。——危うく今年も、似たようなマフラーを買うところだった。
プレゼント選びのいちばんむずかしいところは、センスでも予算でもなく、たぶん「覚えていること」なんだと思う。
相手が何を好きで、去年は何を贈って、記念日まであと何日あるのか。ぜんぶ地味で、ぜんぶ大事で、そして、ぜんぶ忘れる。忘れるのは、気持ちが足りないからじゃない。ただ、人の記憶はそういうふうにできているだけだ。忙しい毎日のなかでは、大切な人のことほど、当たり前の景色になっていく。
でも本当は、その「覚えている」という地味な部分こそ、贈り物のいちばん優しいところなのかもしれない。去年と違うものを選べるのは、去年を覚えているから。「そういえば前にこう言ってたな」を拾えるのは、ちゃんと聞いていたから。気の利いた贈り物の正体は、センスというより、注意深さなんだと思う。
だから最近は、その「覚えておく」ところだけを、小さな道具にあずけることにした。相手のこと——好きなもの、記念日、去年贈ったもの——をひとこと書いておくと、当日の3週間前に「そろそろですよ。去年とは違う、こんなのはどうでしょう」とそっと知らせてくれる。選ぶのも、渡すのも、気持ちを込めるのも、こちらの仕事。ただ「忘れる」の一点だけを、肩代わりしてもらう。
大切な人のことを、来年も再来年も、ちゃんと覚えていられますように。そのくらいのことで、贈り物はもう少しだけ優しくなれる気がしている。